前澤友作氏が、保有している264億円相当のZOZO株式を、現金化したという話題を先日ブログで紹介しました。
その際には、前澤氏という元オーナーの視点から投資行動の背景を推測しました。
今回は、自社株を引き取ったZOZOの視点から背景を探ってみたいと思います。
ここでは、ZOZOが抱えている課題とその課題を解決する手法によって、
前澤氏、ZOZO、株主の3者が満足する、
かつての近江商人の言葉ではありませんが、「三方よし」の結果を目指した内容を紹介します。
上場企業オーナーが
どういった行動をとっているのか、
その行動の背景には何があるのか、
公開されている情報だけを使って推測するシリーズの8回目です。
「自己株式を活用した行使価額修正条項付き第10回新株予約権の発行及びコミットメント条項付き第三者割当て契約関するお知らせ」
適時開示情報閲覧サービス https://www.release.tdnet.info/
今回の題材『株式会社ZOZOの創設者、あの前澤友作氏が264億円を資金化!』 どうして前澤氏は264億円もの資金を必要としたのでしょうか?前澤友作氏は、株式会社ZOZOの創設者。起業家・実業家としてだけでなく、ミ[…]
適時開示の内容は?
東証が来年4月に「1部」など4市場を「プライム」などの3市場に再編することは報道の通りです。
プライム市場に上場するには、35%以上の流通株式比率という基準が設けられていますが、上場を目指すには、ZOZOはこの基準を満たす必要があります。
そこで前澤氏が保有する自社株を売却してもらうことで、この基準を満たすことを目指しました。
一方で買い取った自社株は、自己株式としているだけでは、流通株式にはなりません。
何らかの形で市場に流通させなければ流通比率の基準をクリアできません。
そこで使われた手法が、「行使価額修正条項付き新株予約権」です。
行使価額修正条項付き新株予約権とは?
長たらしい名前ですが、通称「MSワラント」と呼ばれるものです。
かつて公募増資による資金調達が難しかった中小規模の上場企業が、こぞって発行した手法です。
株式発行による資金調達ですので、株主価値が希薄化することが懸念され、MSワラント発行のプレス後に株価が大きく下落する事例がみられました。
そのため、MSワラントに対してネガティブな印象を持っている投資家が多いのも事実です。
ワラントは、
一定の期間内にワラントの保有者が発行企業に対して、
一定の行使価額に基づく対価を支払うことで、発行会社から株式を取得するための権利です。
MSワラントの場合には、その行使価額が変動するものです。
通常は、ある特定の投資家に対する第三者割当による発行となります。ちなみに本件で割当を受けたのは、Bofa証券会社(元メリルリンチ日本証券)です。
さらに第三者割当に加えて、コミットメント条項(発行会社が割当先に対して、権利行使をコントロールできる)まで加えています。
コミットメント条項は、割当先が発行会社に対してコミットする訳です。
本件でいえば、Bofa証券はZOZOの意図するように責任を持ちますよと言っているのです。
どこが「三方よし」なのか?
東証は、今年6月末時点での状況に基づき各企業に対して再編後の基準に適合する市場を通知します。
その意味で、ZOZOは待ったなしの状況であったと推測されます。
ZOZOにしてみれば、大株主である前澤氏が保有している自社株を引き取るのが現実的な選択肢です。
自己株式取得を行わなければ、希薄化を伴う新株を発行することになりますから。
一方で前澤氏から引き取った自社株を、自己株とするだけでは意味がありませんので、市場で売る必要があります。
公募による処分も考えられますが、
1か月余りの時間しか残されていないことやインサイダー取引規制の問題、一気に株主価値の希薄化が進む等の問題があります。
MSワラントであれば、新株に交換する権利ですから、今後の株価に応じて権利行使のタイミングをコントロールすることができます。
しかも本件では、既存株主価値を希薄させないように、行使価格の最低保証額(下限行使価額)に工夫をしています。
通常であれば、下限行使価額はもっと低い価額に設定されるはずです。
しかし、本件では前澤氏から引き取った価格を下限行使価額にしているのです。
自己株式の取得と組み合わせたことと、ZOZO株価へ強気な見方が背景にはあったと考えられます。
ZOZOは、前澤氏から引き取った価格を下限として、自己株式を処分しますので、既存株主価値を希薄化しないことになります。
しかも株価が上昇すれば、自動的に行使価額も上昇しますので、ZOZOからすれば、調達できる資金も増える可能性があります。
Bofa証券がこうした工夫をした上で、自分たちが責任をもって自己株式を市場で売却するとコミットしてくれたのです。
結果として、ZOZOのニーズに合致したのではないかと推測されます。
まとめ
MSワラントのこんな使い方があったのか、というのが本件に対する第一印象です。
自己株式の取得と組み合わせることで、Bofa証券は見事に企業のニーズに応える内容に仕立て上げたと思います。
前澤氏は金融機関から求められていた借入金の返済に、
ZOZOの株主は株主価値の希薄化を受けずに、
ZOZOは、プライム市場での地位を確保し、
株主への説明責任もきちんと果たすことができた
という意味で「三方よし」ではないでしょうか。