株式貸借契約と株式先渡契約
知る前契約・知る前計画
企業オーナーが、自社株式を売却する手法として、ショート・フォワード取引(株式貸借契約と株式先渡契約を組み合わせた取引)を紹介します。
・インサイダーフリーでの自社株売却が可能
・フロア価格(最低売却価格)の指定が可能
今回は、家系ラーメンで人気の町田商店を展開する、株式会社ギフト(9279東証1)の創業者、田川氏が行った自社株売却手法を採り上げます。
変更報告書の内容は?
田川氏は、44%保有している内、1.5%分(約4億円相当)を、みずほ証券との間で株式譲渡契約と株式貸借契約を締結したとの内容です。
株式先渡契約(株式譲渡契約)取引とは?
先渡契約とは、決められた期日に株式を引き渡す契約です。
本件では、2021年6月29日から7月30日までの間を受渡予定期間としています。
約定した時点で、受渡予定期間に売却する価格と数量を決めて売買します。
株式貸借契約(貸株契約)と先渡契約の実務は?
本件では、株の貸借期間を、2021年6月16日から7月30日としています。
みずほ証券は、貸株契約に基づいて、株を田川氏より借受け、それをネタ株として、市場で株を売却(先渡し)します。
その際、設定している最低購入金額以上の価格で売却します。
貸株の期限になったら現物株を田川氏に返却します、
同時に、現物株と引き換えに売却代金を田川氏に渡します。
みずほ証券は、現物株を先渡契約に基づく決済日に決済して取引終了です。
変更報告書では?
通常は、売却資金と株式の受渡しは、貸株期間の最終日に1度で決済されます。
株式保有比率が1%以上増減する場合、変更報告書では下記の取扱いが必要になります。
証券会社との貸株契約の締結日と、先渡契約に基づく売却代金と株式受渡の決済日を基準日として2回提出されることになります。
知る前契約・知る前計画とは?
企業オーナーにとって、自社株を売却することはかなりハードルが高いです。特にインサイダー取引とならないように、売却できる期間も限定されています。
ショート・フォワード取引は、インサイダー取引とならないように、あらかじめ知る前契約・知る前計画を締結してから売却します。
要するに、私はインサイダー情報を持っていませんよって宣言してもらってから、株を売却することになります。
まとめ
市場区分変更への対応による自社株売却の可能性もありますが、株主の状況を見た感じでは、流通株式基準をクリアするための売却ではなさそうです。
売却金額から推測すると、何か、急に入り用になったのかもしれません。
証券会社が用意している株式の売却手法は、バリュエーションに富んでいるので、それぞれのメリットとデメリットを押さえた上で、ニーズに合致した手法を選ばれるといいと思います。