今回は、8月20日に投稿したリンナイ株式会社の「自己株TOBと自己株消却」の適時開示情報に関して、その背景が見えてきましたので当方の見方を紹介します。
あくまでも推測ですが、林謙治会長の目的は全く私の予想外だったかもしれません。
2021年8月24日 変更報告書No.12 林 謙治 株券等保有割合が1%以上減少したこと
2021年8月27日 変更報告書No.13 林 謙治 株券等保有割合が1%以上減少したこと EDINET
概要
8月19日に適時開示された内容では、リンナイが自己株TOB(上限200万株)を行うこと、そして取得した金庫株は消却するということでした。
誰が自己株TOBに応募したのかについては、今回の変更報告書をみるまではわかりませんでした。
今回の変更契約書から明らかになったのは、以下の通りです。
開示情報を見て思う事①
まず、8月19日の自己株TOBに応募したのは、(株)好兼商事であることは間違いないようです。
不思議に思ったのは、資産管理会社である(株)好兼商事がなぜ公開買付ではなく、ToSTNET3を使ったのかです。
公開買付であれば、みなし配当として受取配当金の益金不算入が使えるのに、ToSTNET3では、法人の場合は譲渡所得として税金が37%かかるからです。
恐らく、税金を余計に払ってでも、今回の一連の流れをスムーズに進めたかったのかも知れません。
1~2か月の準備が必要な公開買付に比べて、ToSTNET3は時間的にも手続き的にも簡単にできるからです。
開示情報を見て思う事②
(株)好兼商事は、140万株を林会長に現物分配したという。
現物の株式を分配するということは、剰余金の分配可能額との関係を考慮する必要があります。
140万株を分配する為には、その金額に相当する利益剰余金の額が必要となります。
その財源を160万株の売却代金で賄うことが出来れば、話の辻褄があいます。
恐らく、(株)好兼商事から林会長に140万株を現物分配する為に、最初に160万株をリンナイに売却したと考えるのが合理的です。
開示情報を見て思う事③
林会長は、現物分配を受けた140万株を寄付しています。
恐らく、公益財団等が寄付先だと思われます。
林会長は、140万株の配当を受けているので、配当課税(総合課税)がされるはずですが、寄付金控除の制度を活用し税負担は軽減されるはずです。
所得の40%を控除することが出来るので、リンナイ株式の時価と簿価の差額から生ずる売却益に対する課税も低く抑えることが出来るはずです。
結果として、(株)好兼商事が保有していた簿価の低いリンナイ株式140万株を、ほとんど税負担なく、現在の時価で財団に寄付したことになります。
一株当たり配当を140円とすると、年間140万株×140円=196百万円の配当金です。
開示情報を見て思う事③
(株)好兼商事は、清算中とのことです。
通常、法人を清算する場合には、それに伴う税負担が生じます。
しかし、以下の課税分をカバーする為に、好兼商事は160万株を売却したと考えると合理的です。
- 160万株の株式譲渡益課税分
- 140万株の現物株式配当によるみなし譲渡益課税分
- 好兼商事清算時の課税分
これは、昨年設立したゲンリュウが関係ありそうです。
リンナイ株式を50万株保有していますが、林会長個人として250万株、資産管理会社として50万株の合計300万株が、適正な資産額と考えたと推測します。
それでも約300億円ですからすごい金額ではありますが。
開示情報を見て思う事➃
通常の経営者の場合、資産管理会社が保有する160万株を自己株TOBで売却したならば、売却益課税を軽減するために、飛行機や船を購入するケースが多いです。
金融機関の担当者であれば、当たり前のように提案するはずです。
しかし今回、林会長はこうした使い方をしていないようです。
結局、飛行機や船は、課税の繰り延べに過ぎないので、先延ばしせず、払うべき税金はさっさと払うという姿勢なのかと推測します。
まとめ
簿価の低いリンナイの株式を300万株(時価約300億円相当)保有している好兼商事を、いかにして次世代に承継するかということは、林会長には常に頭の痛い問題だったと推測されます。
金融機関の立場からすれば、資産承継の提案としては、宝の山に見える訳ですから、林会長にしてみれば辟易としていたに違いありません。
こうした状況の中で、寄付をし、次世代へ残す財産を適正な額とするにはどうすればいいかを考え、逆算していった結果が、160万株の自己株TOBだったと思われます。
いつまで続くかわからない課税の繰り延べや身の丈以上の借金もなく、それでも十分すぎる資産を残してもらえるなんて、私が承継者であれば、どんなに有難いかと思います。