自己株式取得の方法③ 個人との相対取引

今回は、「保険見直し本舗」を運営する、保険サービス業のNFCホールディングス(7169 JQ 時価総額353億円)が、前代表取締役の山岸氏から相対取引で自己株式を取得した話題です。

株式保有比率が3%未満の個人株主の場合、市場内(譲渡益課税)でも市場外(みなし配当課税)でもどちらでも手取り額に差は生じない

取得費加算の特例を考慮するなら、市場内(譲渡益課税)で売却する必要がある

出所:株式会社NFCホールディングス
2021年7月14日「特定の株主からの自己株式取得結果及び取得終了に関するお知らせ」
2021年6月29日「特定の株主からの自己株式取得に関するお知らせ」
適時開示情報閲覧サービス https://www.release.tdnet.info/
売主追加議案の請求権
みなし配当
保有比率3%未満株主の特例

概要

NFC社の元代表取締役である山岸氏から、同社が自社株を相対取引で取得したという内容。
これまで見てきたように、自社株の取得方法には市場内取引と市場外取引があり、税務効果を考えれば、個人は市場内取引、法人は市場外取引を選択するのが普通です。
しかし今回は、個人が市場外取引である相対取引で株式を売却しました。
市場内であれば、良くある話なのですが、今回はどうして市場外での売却を行ったかを推測してみます。
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相対取引とは

今回は、特定の株主から株を取得する、すなわち市場を通さないことから市場外取引になります。
しかし相対取引は、株主総会の特別決議(3分の2以上)による承認が必要という高いハードルがあります。
特定の株主から買うなら私の株も買って~という株主がいたらどうするのでしょうか?
これを売主追加議案の請求権といいますが、買取価格を市場価格(時価)にしている場合には、この請求権は生じません(会社法第160条)。
今回は、市場価格に設定しているため、山岸氏と相対取引で株式を取得しても、他の株主が買取を請求することはありません。

本件の検証

NFC社の株主構成は、株式会社光通信が74%保有していますので、株主総会の特別決議は問題なく承認されるはずです。
恐らく、前代表取締役の山岸氏から株式の売却を持ち掛けられたNFC社は、市場内で売却されることで株価の下落要因となるよりも、相対取引で株式を引き取ることを提案したのではないでしょうか?
ただ、今回は相対取引での引き取り価格が市場価格なので、山岸氏からするとメリットがないように見えます。
なぜなら、相対取引における税務上の取扱いが個人には不利だからです。

市場外取引(相対取引・自己株TOB)での税務上の取扱い

相対取引は市場外取引に該当し、その場合には買取価格(図表1では、自己株TOB価格:100)とNFC社の資本等の額:20との差額が、みなし配当:80とされます。
参考までに市場内(Tostnet3)と市場外(自己株TOB、相対)の課税関係の違いを図示します。
【図表1】
配当金の益金不算入制度を活用して、全額(若しくは50%)を益金不算入できる法人と異なり、個人は最高税率であれば55%の税金が課せられます
図表1では、税額は80×55%=44となります。
通常、オーナーであれば、最高税率が適用されるでしょうから、個人がわざわざ市場外取引を選択する理由はありません
では、なぜ山岸氏はみなし配当が課せられるであろう市場外取引を選択したのでしょうか?

保有比率3%未満株主の特例

株式の保有比率が3%未満株主には、次の特例があります。
・配当金と譲渡損の損益通算が可能
・配当金の税率は、3%未満として20.315%が適用される
法人株主の場合には、配当金と譲渡損の損益通算は何ら問題はありませんが、個人の場合には、保有比率が3%未満のみに適用されます
図表1でみると、法人であれば、損益通算によって、みなし配当80+譲渡損20=60がみなし配当となります。
通常であれば、個人は、損益通算が出来ないので、みなし配当80に最高税率55%が課税されるので市場外取引を選択する人はいません。
今回、山岸氏の保有比率は0.73%ですので、この特例(法人と同じ)が使えるのです。

まとめ

図表1からわかることは、個人で保有比率が3%未満であれば、Tostnet3を使った譲渡益60と、自己株TOBあるいは相対でのみなし配当60とで、違いがなくなるのです。
恐らく、山岸氏は、手取り額がいずれの方法でも同じならということで、NFC社の希望である市場内での取引を選択したと推測されます。
今回は関係ありませんが、仮に相続が発生したときに、個人はどちらで相続した株を売却すればいいでしょうか?
取得費加算の特例が3年間使えるので、譲渡益を選ぶ方が有利だとわかります。
こういうことを知っていると知らないでは、大きな違いが出てしまいます。
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