役員持株会
今回は、スマホゲームでお馴染みのグリー(東証1部3632)の創業者である、田中良和氏から提出されたEDINET提出書類(令和3年5月31日 変更報告書 No12)を紐解いていきます。
変更報告書の提出事由は?
変更報告書の提出事由は、「担保契約等重要な契約の締結」です。
今回は、みずほ銀行に対して1200万株を借入の担保として差入れています。
野村信託銀行や三菱UFJ銀行への既存担保の差入れ分を合算すると、6,700万株を担保として提供していることがわかります。
1200万株の担保ですから、今の株価560円と一般的な担保掛目である70%を基に借入可能金額を計算すると、約50億円だと推測されます。
残念ながら借入目的はこの資料ではわかりません。
資産管理会社なら選択肢は幾らかありそうですが、個人での借入ですから、何に使うのでしょうか?
不動産購入、それとも個人的な投資でしょうか。
田中氏が保有する自社株の簿価は?
保有株式の総数が112百万株ですので、先程の株価を使うと時価にして約630億円が保有時価になります。
保有株数のほぼ半分を金融機関からの借入の担保に提供している計算になります。
考え方次第ですが、まだ半分位は借入の為に担保提供余力があるとも言えます。
添付資料の(7)保有株券等の取得資金を見ると、自社株の取得資金は、三井住友銀行からしか借入していないようです。
その金額はたったの4百万円です。
今まで自己資金の56百万円と借入金を使って自社株を購入しましたが、その金額の総額は、60百万円です。
現時点で112百万株保有しているので、田中氏は現在1株あたり560円の株を0.5円で保有していることもわかります。
会社の成長に合わせて株式が分割された効果もありますが、単純計算で元手が1000倍以上に増えた計算です。
創業者利益ってすごいですね。
おまけの情報がついてきた
変更報告書の記載事項として、最近60日間の取得又は処分の状況を開示する項目があります。
たまたま担保の件で見ていたら、一緒にこの情報もついてきた感じです。
田中氏は役員向けの累投をしていることがわかりました。
累投は、毎月定額で株式を買い付ける仕組みです。最近では業績連動の株式報酬が注目されていますが、役員が自社株をインサイダー情報とは関係のない方法で、持ち株比率を上げる手法としては、役員持株会かこの累投が一般的です。
役員持株会とは?
役員持株会で購入できる金額は、日本証券業協会のガイドラインで月100万円(年間1200万円)が上限であると記載されています。
従業員向けの従業員持株会とは異なり、奨励金はありません。
役員がインサイダー規制を気にせずに自社株を買うことが出来る手段として有効なものです。
数百億円も資産を持っているオーナーにとって年間で1200万円とは、あまりにも少ない印象ですが、役員の組織への帰属意識向上という目的では有効かも知れません。
今回の報告書では、毎月900株を引き出しているのがわかります。
金額にして、50万円弱です。
巷のサラリーマンであれば、毎月50万円のお小遣いは相当使い勝手がありますが、田中氏ともなると、果たして何に使うんでしょうか?
あとがき
こうした情報のお陰で、企業オーナーがどういったことを考えているのかを、推測することが可能になります。
一方でこんなことまで公開されてしまうのかと思うと、資産家の宿命と片付けるのも何となく複雑な気持ちです。